(2010.08.30)
学んだことを社会に還元する
学芸員
小林紀子さん
34歳
ワンダフルワークス第15回目のゲストは、横浜市歴史博物館で学芸員として働いている小林紀子さん。調査研究に没頭しているようなイメージがある学芸員の仕事ですが、今回のインタビューを通じて、実際はたくさんの人とのコミュニケーションがとても大切な仕事だということがわかりました。そして、専門分野の追求を日々していくことで、社会のために仕事をしている小林さんの姿がありました。

地元の歴史について勉強したいと思ったことがきっかけ
- 質問
- ―学芸員の仕事について教えて下さい。
- 小林さん
- いろんな博物館がありますが、だいたい共通しているのが、まず資料を集めて保存するという仕事が一つ、それからそれについて調査研究するという仕事と、その成果を公開していく教育普及や展示、大きく分けてその三つがあります。学芸員というのは、その三つ全てに関わる仕事なんです。
- 質問
- ―小林さんの具体的な仕事内容はどんなことですか?
- 小林さん
- 主に体験学習ですとか、講座や講演会ですとか、あと史跡巡りとかそういうさまざまな行事を企画して、自分もたまに講師をしたりしています。それと同時に、展示の企画や資料収集もします。
- 質問
- ―専門はどういった分野になるんでしょうか?
- 小林さん
- 近世江戸時代の担当になります。学芸員は大学院を出られている方がほとんどなので年齢層は高めで、当館の学芸員の中では私が一番若手になります。
- 質問
- ―学芸員になるには資格が必要ですか?
- 小林さん
- はい、「学芸員資格」というのが採用資格として必要な場合がほとんどです。ただ、資格は大学でいくつか決められた授業を受けて1〜2週間の博物館実習をすれば取れますが、実際に学芸員になるにはそれだけではちょっと難しいんです。
- 質問
- ―大学院まで行く必要があると?
- 小林さん
- そうですね。江戸時代の専攻ですと、例えば地元の古いお家から古文書が出たから読んで欲しいと持って来られたお客様がいた時に、大学卒業レベルだと読めないんですね。やはり大学院の修士課程にいって、修士論文を書いてやっと一人前になれたかなれないかくらいのところがあります。
- 質問
- ―小林さんは大学と大学院でどういったことを専攻したんですか?
- 小林さん
- 私は栃木県出身なんですが、古墳などがたくさんあるところに住んでいたので、子どもの頃からそういうところへ遊びに行ったりしていて、それで歴史に興味を持って大学は文学部の史学科に行きました。大学ではやっぱり地元の歴史について勉強したいなと思って、江戸時代の最後の年に戊辰戦争という戦争が起こった時に栃木県も軍隊が通り抜けたりしているので、地元の人たちとはどういう関わりがあったのか、というようなことについて調べていました。いま大河ドラマで「龍馬伝」をやっていますけど、あれよりちょっと後の時代ですね。大学院でも同じようなことを研究していました。

なかなか就職が決まらないで悩んでいる先輩後輩も周りにたくさんいた
- 質問
- ―学芸員になりたいと思ったきっかけを教えて下さい。
- 小林さん
- 大学で卒業論文を書いてる時に古文書を探していて、地元の博物館にたくさん所蔵されているということでその博物館に行ったんですね。そしたら、そこの学芸員さんがとても親切な方で、古文書の閲覧ですとか卒業論文のアドバイスとかすごくお世話になりました。それでその学芸員さんが地域の方たちといっしょに古文書を読む活動をしたり、ワークショップを開いたり、史跡散歩を計画して自分で先生もしたりしているのを見て、あ、こういう仕事いいな!と思ったんです。
- 質問
- ―好きな歴史の分野に、仕事でも携わりたいと思うようになったんですね。
- 小林さん
- そうですね。それまでも歴史に携わる仕事がしたいなと何となくは思っていて、学芸員課程も取ってはいたんですけど、ほんとになりたいなと思ったのはその卒業論文を書いてる時でした。それで、これはやはり大学院の修士課程に行かなくてはならないと思って勉強しました。
- 質問
- ―横浜市歴史博物館で働くようになったのはどうしてですか?
- 小林さん
- 就職先をいろいろ探していて、受けては落ちての繰り返しだったんですが、やっぱり横浜の歴史は幕末を研究するものにとっては惹かれるものがありました。また、横浜市歴史博物館は体験学習に非常に力を入れていたので、卒論の時に学芸員さんの地元の人とのふれあいを見ていたこともあり、体験学習もやってみたいと思って受けてみたら、幸運なことに採用していただけたんです。
- 質問
- ―学芸員として働くのは、博物館の数も限られていると思いますし、かなり競争が激しいんでしょうか?
- 小林さん
- はい、毎年採用があるということはまずないです。館によっては、どなたかが辞めても新しく採らない場合もありますし、あとは正職員ではなくて嘱託採用に変わっているところもあるので、なかなか厳しい現状ですね。
- 質問
- ―大学院まで行って研究しても、皆さんがその分野で働けるわけではないんですね。
- 小林さん
- そうですね、それはちょっと残念なことです。大学教員には非常に優れた方しかなれませんし、どこかの研究機関に入るというのもそんな誰でも入れるわけではないので、なかなか就職が決まらないで悩んでいる先輩後輩は周りにたくさんいました。
- 質問
- ―大学院への進学を決意した時にも、就職が厳しくなるという状況はわかっていたと思うんですが、不安ではありませんでしたか?
- 小林さん
- すごく不安でしたね。私は特に修士を1年留年して3年やっているので、その時にアルバイトは少しはやっていましたけど、親からの仕送りに頼っていましたし、奨学金も少しはもらっていましたけど、なかなか就職のメドも立たず、学芸員になれなかったらどうしたらいいんだろうってだいぶ悩みました。
- 質問
- ―研究の経験がなかなか仕事にむすびつかない現状があるんですね。
- 小林さん
- いざ大学院に入ってしまうと、外へのそういう危機感みたいなものはある一方で、もうその環境で研究会をこなさなきゃとか、ゼミをこなさなきゃとか、調査もしなきゃとかで、何となくその中にずっといるような感覚に陥ってしまうこともあって、危険だとは思うんです。そうして気づいたらちょっと年月が経っちゃっててっていう。
- 質問
- ―就職が厳しい現状をふまえて、大学院に入る段階で卒業後の目的をある程度はっきりさせておくことが大事になりそうですね。

たくさんの人たちと出会えることが醍醐味
- 質問
- ―この仕事をしていてよかったなと思う瞬間を教えて下さい。
- 小林さん
- 体験学習や講座を開催した時、来ていただいたお客様が「楽しかった」とか「良かった」とおっしゃって帰っていただくお顔を見ると、あ、良かったなっておもいますね。体験学習は小学生さんが中心になりますが、講座だと年配の方が多かったりしますので、広い幅の年齢の方に接することができて、しかもそれで笑顔が見られるというのはやっぱりうれしいなと思います。
- 質問
- ―仕事をしていて落ち込むことはありますか?
- 小林さん
- いろいろあります(笑)、もう紙一重ですね。いろんな年代の方と接するので、最初は接し方というのがやはりうまくいかなくて、大学院にずっといると同じ年代の人としか接してこないので、なかなか接し方というのが掴めなくて、それでうまくできない自分に落ち込んだりもしました。来館者の方と接することが多いので、ほかのお仕事でも同じかもしれませんけど、接し方がすごく大事ですし、良かったなと思う瞬間と落ち込んでしまう瞬間は、いつも紙一重だと思います。
- 質問
- ―学芸員さんというと、調査研究を黙々とやっているのかなというイメージもあるんですが、人と接する機会も多いんですね。
- 小林さん
- そうですね、コミュニケーション力は必要だと思います。ここは開港以前の横浜の歴史を調査しているので、資料を持っている地元の方々とのお付き合いもとても大切です。所蔵者の方の大切な資料を館でお預かりするので、この人には預けられないと思われてしまったらもうだめですし、展示を企画したり講座を開くのも、いまはいろんなところで似たような講座もやってますから、ここはこの先生がいておもしろい話を聞けるから来ようとか、そういう風にまた来たいと思ってもらえるようなことができないといけないと思っています。
- 質問
- ―この仕事のやりがいはどういうところに感じますか?
- 小林さん
- 地元の方や、体験学習に来る子どもたち、資料の所蔵者の方、あとは資料をお借りすることもあるほかの博物館の方など、そういう方たちと接してなんぼというところがあると思うんですね、やっぱり醍醐味はそこだと思います。
- 質問
- ―調査研究の過程に、いろんな出会いがあるんですね。
- 小林さん
- 顔が見える関係というか、いろんな人と接することができるというところにやりがいがあると思います。それに博物館は教育機関でもあるので、多くの方々にここに来ていただいて、展示を見て体験して講座を聞いていかに楽しんでもらうか、また、楽しむだけでなく一つ物知りになってお帰りいただく方法を考えていくのも楽しいですね。

働くことは、人間としていろんな可能性を与えてくれるもの
- 質問
- ―学芸員としてのこれからの目標を教えてください。
- 小林さん
- まだ働いて7年目なんですけどまだ全然地に足がついていないというか、いろいろな仕事を担当してきて、やっと何とか回せるようになってきたという感じなので、これから先は、自分はこの資料が得意っていうところをもっと探して、「ここの横浜市歴史博物館に小林というくわしい学芸員がいるから、じゃあ行ってみようか」と思われるような強みを増やしていきたいなと思います。
- 質問
- ―自分のできることをとことん追求していくことが必要なんですね。
- 小林さん
- はい。ただ基本は市民の皆さんからお預かりしている資料がもとになりますので、まずはそういった大切な資料をもう一回きっちり時間をかけて見直していって自分の強みを作っていきたいです。それでやっぱり最後には、市民の皆さんに還元できるような活動につなげられるようにしていきたいです。
- 質問
- ―では最後に、小林さんにとって「働く」とはどういうことだと思いますか?
- 小林さん
- 学芸員というのは、ちょっと特殊な仕事だとは思うんですね。大学・大学院で学んだことをそのまま活かせているので。でも、好きなことをやって遊んでいるというわけではなくて、好きなことが仕事になってしまうと、それはそれで今までのようにただ好きではいられないというところも感じます。でもやっぱりそういう仕事を通じて自分も新しい知識が身に付きますし、周りのいろんな方々と出会っていくことで、自分の人生経験とか人間の幅も少しずつ広がっていくものだと思います。働くことは、人間としていろんな可能性を与えてくれるものかなと思います。
- 質問
- ―どうもありがとうございました。
>>横浜市歴史博物館
