Hamatorium Cafe通信

【政策の創造と恊働のための横浜会議】

横浜会議 〜今、求められる新たなセーフティネットとは〜(第1部)

 横浜市では、市民・企業・行政・研究者などのさまざまな主体が参加する、より良い政策実現を目指す対話の場「横浜会議」を行っています。横浜会議は、横浜市の総合的な政策形成能力の向上を「市民との恊働」によって実現することを目的に設置され、2004年度から始まりました。

 研究分野はこれまでに、地域や自治、都市計画、経済・経営、福祉、環境、教育などさまざまな分野にわたり、昨年度は、横浜で若者支援を行っている「K2インターナショナルジャパン」による横浜市立戸塚高校定時制での支援の取り組みを中心に恊働研究を実施。

 そして、6月5日には横浜市開港記念会舘で、昨年度の取り組みの報告と新たな対話の場として、「横浜会議 第7回 政策研究発表会 〜今、求められる新たなセーフティネットとは〜」が開催されました。2部構成で行われた横浜会議当日の内容を、2回に分けてお伝えします。

学校教育ができること・できないことを見きわめ、できないことは外部がサポート

 横浜会議における昨年度の政策研究「地域における学校から社会への若者の包括的支援の検討」では、横浜市立戸塚高校定時制で在学中の生徒を対象にしたインタビューやアンケート、現場の先生へのインタビューなどを通じて、いま困難を抱える若者がどのような状況にあるのか、定時制高校の生徒が抱える問題に焦点が当てられました。

 研究メンバーが戸塚高校定時制の4年生79人に実施したアンケートからは、アルバイトなどで働きながら学校に通っている生徒のうち、その5割近くが、自分の収入で家計を支えながら学校に通っていることが判明。そのため今の生活をなんとかやりくりすることに必死で、卒業後の選択肢として進学を選ぶことが難しく、不景気による就職難も伴ったことで、卒業後に行き場のなくなってしまう生徒が増えているといいます。

 2009年度の卒業生の進路状況も、約30%が「就職」、約15%が「進学」、残りの約55%が「その他」となっており、卒業後に就職と進学どちらの枠組みにも入れない生徒が半数以上を占めていることを示しています。また、戸塚高校定時制では、1年時の生徒数が4年生になる頃には中退などで半減する傾向にあり、調査で明らかになったこと以上に、いま何をしているか全く状況が把握できなくなってしまった生徒が数多くいることも大きな問題です。

 研究メンバーの西村貴之さん(首都大学東京都市教養学部助教授)は、「進路が決まればいいというわけではなく、彼らの生活の基盤を作ることが必要です。生徒と根気よく向き合う『教員文化』が戸塚高校にはありますが、それでもマンパワーの限界や、普通科教員の専門性を超えた対応の限界があり、学校教育ができること・できないことを見きわめ、できないことは外部専門機関がサポートする必要があります」と話します。

問題が長期化する前に、いかにもっと早く支援につなげることができるか

 定時制高校の生徒が厳しい課題に直面する中、その課題を先生や学校だけの問題にせず、教育機関と民間団体との連携によって解決しようとしているのが、横浜で若者の支援を行っているK2インターナショナルジャパンによる取り組みです。

 同社は、若者の就労支援の場「お好み焼 ころんぶす」や共同生活型の自立支援施設などの運営を通じて、横浜を中心に若者の自立・就労支援に20年以上取り組んでいます。そして、2008年より戸塚高校定時制で先生たちとの意見交換を行い、2009年11月からは週に1度学校を訪問し、卒業後に行き先の決まらない生徒への個別支援の取り組みを始めました。

 同社の岩本真実さんは、戸塚高校定時制での支援を始めた背景について「支援現場を訪れるのは長い期間引きこもっていた若者が多く、その問題が長期化する前にもっと早く支援につなげることができないか、学校につながっている間に支援ができないかということを感じていました。若者の支援機関やサービスが充実する一方で、支援機関を訪れている若者はまだまだごく一部という現状があります」と話します。

 同社では現在、生徒の個別相談やグループワークなどを行うほか、卒業後も支援が必要な生徒は「よこはま型若者自立塾JOB CAMP 」や「地域ユースプラザ」(よこはま北部ユースプラザよこはま南部ユースプラザよこはま西部ユースプラザ)などの支援施設につなぎ、生徒の抱えるさまざまな不安を明らかにしながら、卒業後も生徒たちの所属する場がなくならないように取り組んでいます。

 岩本さんは、実際に戸塚高校定時制で支援に取り組む中で見えてきたこととして「定時制高校に通う生徒の中には、生活保護や親の問題、発達の問題など複合的な課題を抱えている生徒も多いです。また、アルバイトをしている生徒は多いですが、それが次につながらない使い捨ての労働力として働いている場合が多く、なかなか希望が持てずに貧困の連鎖に陥ってしまうこともあります」と話します。

 また、岩本さんは今後の方向性として、K2インターナショナルジャパンが新たな就労支援の場として「湘南若者サポートステーション」を6月25日に開所することを発表したほか、高校内での常設相談室の設置や、授業時間中も利用した面談やセミナー、中退者支援をふまえた1年生からの支援、また、「学校給食の復活」や「支援期間中の交通費のサポート」、「就活スーツの貸し出し」など、経済面での支援も行っていく必要があることをうったえました。

>>【カフェ通信関連記事】戸塚高校定時制(1)〜先生たちの放課後座談会〜

>>K2インターナショナルジャパン


家族が行うような寄り添い型の「伴走的支援機能」

 横浜会議第1部の最後には、岡田朋子さん(福祉と保健の生活課題を考える会)による、支援者への聞き取りや都市部の生活状況の調査により見えてきた課題や、支援のあり方について報告がありました。

 「福祉と保健の生活課題を考える会」ではこれまでに、区福祉保健センターの職員を中心にした、現場で抱える困難事例の検討会などを行い、2006年度の横浜会議では、生活困難層の把握や分析によって有効な生活支援サービスを見出すための研究「生活困難層への公民協働の生活支援システムのあり方研究-生活相談機能を中心として-」が恊働研究として採択されました。

 岡本さんは、まず都市部の生活状況の特徴として、一人親世帯の中には親がうつ病などの疾病を持ち、経済的にも苦しいことから「育児・子育ての課題」を抱える家庭が多いことを指摘。「生活困難な人々は生活課題をいくつも重複して抱えているために自ら助けを求めることができず、相談機関を実際に訪れることも難しいので、まずはその実態を把握し継続的な支援をしていくことが必要です」と話します。

 そして、保育園や小中学校、不登校生の学習支援を行うNPO、区福祉保健センター、地域ケアプラザなどのさまざまな現場スタッフへの調査の結果、生活困難な人々への支援には、家族が行うような寄り添い型の「伴走的支援機能」、支援者のネットワークを推進するため「司令塔的機能」を果たす人材、生活困難な人々と支援者の間に必要な「情報共有機能」が重要であることが見えてきたといいます。

 特に、「伴走的支援機能」については、現状の支援サービスや制度は、利用者の方からサービスに近づいていくことを前提に行われており、生活困難な人々へ対しては、支援サービスにつながるまでの手助けをする伴走機能が必要であると主張しました。

 このように、横浜会議当日の第1部においては、若い年齢の時期から始める早期支援の必要性や、支援を必要としている人たちへ既存の支援サービスをいかに届けるかの重要性が話されました。次回は後半、第2部の様子をお伝えします。

次回へ続く>>

取材・文/古屋涼

(2010.06.16)
↑Top