荻田自分の場合、北極に行くという珍しいことをやってるから特別なことみたいに思われるけど、全然そんなことなくて。みんなそれぞれ、その人にしか話せないことってあるわけじゃないですか。人生はその人のものでしかないわけだし。
1977年神奈川県出身。
大学を中退後、テレビで冒険家の大場満郎さんと出会い、大場さんの企画した
「北磁極をめざす冒険ウォーク2000」に参加。
以後、10年間毎年のように北極を冒険しており、現在、日本人初の北極点無補給単独徒歩を計画中。
詳細は、荻田さんのHPでご覧下さい。
http://www.ogita-exp.com/homepage/profile.html
荻田自分の場合、北極に行くという珍しいことをやってるから特別なことみたいに思われるけど、全然そんなことなくて。みんなそれぞれ、その人にしか話せないことってあるわけじゃないですか。人生はその人のものでしかないわけだし。
石井それはそうだ。
荻田同じ人生を歩んだ人なんか世界中探してもいないわけで。自分はたまたま北極だっただけで。石川遼にフリーターの心を説けといわれてもわかるわけがないわけですよ。みんな自分の人生があって言葉があるわけですから、「俺は俺で特別なんだって、そういう自信を持てるといいですよね。
石井大事ですね。自分を受け入れきれないままずっと自分を疑い続けちゃうというのは…。
荻田それは悲しい。
石井自分を受け入れる作業っていうのは、会社に入って評価されるとか、彼女ができるとかも、すべて第三者がいての評価じゃないですか?北極って一人でしょ?そういう他者がいない世界で自分を受け入れていくというのはどういう感じなんですかね(笑)
荻田う〜ん…、自己満足というか(苦笑)。なぜ10年間北極に行き続けているかというと、立ち止まりたくなかったんです。自分がなぜ生きているのか、明確な目的がないことがいやだったんです。「なぜ北極に行くんですか、達成感ですか?ってよく言われるんですけど、達成感なんて全然求めてないんですよ。達成感なんていうのは虚しいだけで、そんなものはどうでもいいんです。「達成する瞬間というのは目的を失う瞬間なんですよ。
石井うわあ、深いなあ。
荻田自分にとって北極を歩いている一ヵ月半は旅だけど、アルバイトで資金を作ってる間も全部旅なんですよ。北極はその延長にあるだけ。なぜ自分が生きているのか、なんで息してて、朝目が覚めて、夜には日が暮れていくのか、それは全部北極で歩くためなんですよ。そして、たどり着いたらそこで自分の生きてる理由を失うんです。だから嬉しくもなんともないというか。
石井え!?そうなの?
荻田安堵はしますよ、無事に歩き終わったと。でも次の瞬間じゃあ来年どうしようって考えてるんですよ。
石井常に生きてる実感の中にいたい、みたいな感じですかね。今、北海道に移り住んでいるわけですが、それも何か関係があるんですか?
荻田次のステップに行くにあたって、自分の環境を変えた方がいいかなと思って。頭を切り替えるというか。同じとこにいたら同じようなことしかできないような気がしたし。
石井その感じって、荻田さんが大学を中退したときとか、大場さんのテレビを観たときの感じと相通じる感覚ですよね?同じところに留まってられないような。
荻田そうかもしれない。常に変化を求めてます。けっこうどこにでも適応できるタイプだし。
石井それは北極に行きはじめてから、自分って案外適応できるんだなって気づいた感じですか?
荻田そうですね。
石井若い人たちにそういう自分の感覚を伝えたいというのもあるんですか?
荻田ありますね。俺が何を見てきたのか、どんな世界だったのか、それによって自分が何を感じてきたのか。経済的には大変だけど、自分の好きなことをやってると精神的にいいし、充実感あるよ、とか(笑)
石井北極からいただいたものを、お返ししていく感じなんですかね?
荻田そういう感じですね。
石井今の自分に満足しているから分けれるんですよね?
荻田そうですね。自分の中での充実があるから人に分けれるわけであって、自分が充実していないのに分け与えることなんてできっこないわけだから。
石井今の若い人たちに一番伝えたいことってなんですか。
荻田う〜ん…、「根拠のない自信を持て」ですかね(笑)
石井大事大事!自惚れみたいな(笑)
荻田根拠作っちゃうと誰も自信なんて持てないんですよ。俺ってすごいよって、じゃあその根拠はなんだって、そんなもんないんですよ(笑)。でも、その自信を信じると何かいいことあるんですよ。
石井根拠もないのに動けちゃうって若い時の特権ですしね。
荻田やっぱり年を取れば取るほどシガラミは増えるし、頭固くなるし、身体もきつくなる。だけど若いときはいくらでも無理はきくし、失敗ができる。
石井そう、失敗が許される年齢なんですよね。その辺が若い人たちには実感が持ちにくみたいです。
荻田失敗なんてのは人が決める定義であって、自分が失敗と思わなければ失敗じゃないんですよ。
石井数年後振り返ればその失敗が糧になってたりね。
荻田なんだって経験ですから、失敗だって。無駄な経験なんて一個もないですから。やたら今の時代、理由とか意味とか意義とかいってますけど、そんなものはどうだっていいんですよ!そういうことはあとから付いてくるんだから。
石井「幸せってそういうことだけじゃないじゃん」って、荻田さん世代から多様な価値観が出てきてるんだと思う。
荻田我々の世代って、これまでで一番割食ってる世代じゃないですか、いい時期も知らないし(苦笑)。昔の人って生き方が明確だったわけですよね。
石井頑張れば頑張るだけ上がってく右肩上がりの時代はね。
荻田とにかく頑張ってればいいことがあると。我々の世代にとってはそんなの幻想でしかなくて。頑張ったところでいいことなんかないという諦めムードが漂ってて。だから、経済的な幸せが絶対的な幸せなわけじゃないという価値観になっていくと思うんです。
石井多分その価値観の切り替え時が今で、まだ、切り替わってないところの従来的な幸せ像に引っ張られて、こうしなきゃいけないって縛られてる若者は多いでしょうね。荻田さんや、いろんな大人の話を聞いて、世界を広げ、自分から解放されてほしいと思います。今日は長い時間ありがとうございました。北極点無補給単独徒歩、成功を祈ってます!
荻田ありがとうございました。
あとがき
はじめ、荻田さんと話していて空回りする自分がいました。それは、「荻田さん」という個人ではなく、「北極冒険家」っていうのはこういう人というイメージから、こちらが勝手に推測し、模範回答的な答えを求めて質問していたからだと、今改めて思います。荻田さんの答えは、ことごとく僕の意表を突きました。どこまでもフラットで等身大の荻田さん。自分の弱さやかっこ悪さもてらいなく話します。途中から、ありのままの姿で生きる人の、清々しさのようなものを感じはじめました。生きづらい世の中をサバイブするスキルは、実は自分に対して、人に対して正直でいることなのかな、と、荻田さんへのインタビューを通して感じました。
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