これまで、支援者と企業それぞれの目線で座談会を行ってきた、アフターアワーズ「在宅ワークについて考える」。3月2日には、この企画初のオフラインイベント「在宅ワーク・アカデミー」を相鉄岩崎学園で開催し、参加者と共に在宅ワークの可能性を議論しました。

 「株式会社うるる」の星知也さん、「SEプロダクション株式会社」の木村朋大さん、株式会社シェアするココロ、当サイト編集長石井正宏の3名により行われたパネルスカッションでは、仕事をする際の社会背景も考えながら、在宅ワークの働き方について話し合いました。

石井「困難を抱える若者たちが社会に出る前の中間的な就労として、『在宅ワーク』の可能性を議論していますが、これまでの議論の中でどうしても飲み込みにくい物が残ってきています。そのことがベーシック・インカムの議論の飲み込みにくさに似ていると最近気づいたのですが、おそらくそれは、在宅ワークにもこれまでの勤労観をくつ返すような課題が関わっているということなのではないでしょうか」

※注:ベーシック・インカム・・・政府が全ての国民に対して、毎月最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で支給するという最低限所得保障の構想。

「在宅ワークを中間的就労とした際に、何をゴールとするのかをしっかり詰めておくべきだと思います。例えば、社会性を身につけるのか、収入を得るのか、ひきこもりから脱出するのか、どこをゴールにしているかで随分変わってくると思います」

石井「支援団体ごとに、自立や就労といったゴールの定義はまちまちです。ただ、そこに多様な価値観が存在することで、若者の受け皿としての幅が実現されているのも事実です。実感としては、自立のカタチは人それぞれだよね、という柔軟な議論が今は多くなってきていると思います」

「社会との接点がまるでない方たちにも、在宅ワークをすることで社会との接点が作れると思います。次に進むステップとして在宅ワークが利用されればいいと思いますよ」

石井「在宅ワークですべてを解決するのではなく、社会的なリハビリとしての通過点的な活用ですね」

木村「例えば、離転職はその人にとってリセットのタイミングだと思うんです。自分の能力をこれまで発揮できなかった人がキャリアをリセットし、学びながら成長していく。そういった意味で、在宅ワークは案件ごとにリセットしながら成長していけるいいプログラムだと思います」

石井「働くことができない若者の抱える困難さのひとつに、コミュニケーションが苦手ということがあります。在宅ワークはコミュニケーションが苦手でもできるのでしょうか?」

「人と向き合うのが苦手な方も、メールを書かせるとすごくいいメール書いたりする人がいるんですよ」

木村「(非常に実感を込めて)はい」

「ですから、そういうコミュニケーションが苦手で人と会うことができなくても、ウェブ上の受発注のやり取りの中で収入を得られるチャンスはあると思います」

石井「電話で仕事のやり取りをするのと、メールでやり取りをするのでは、ハードルが全然違うと思いますが、電話でやり取りをする必要は『Shufti/シュフティ』では実際どれぐらいの割合であるんですか?」

「最初は電話でというところが一割ぐらいですね。ただ、中には最初に説明がしたいから来て下さいという場合もあります。でも、それは本当に稀ですね」

石井「それは思ったより少ないですね」

木村「スカイプで打合せということはあるんですか?」

※注:スカイプ… 無料で使えるインターネット電話・チャットのサービス

「それもありますね。ですから、オンラインで受発注のやり取りの9割は済みます」

石井「木村さんは前回の座談会の中でも気にされていましたが、ウェブ上でのコミュニケーション・スキルは長けているけども、実際に会って話すことが苦手という若者について心配する点はありますか?」

木村「心配はありますね。ただ、彼らのその『苦手さを取り払う』のか、『苦手であっても働ける』ようにするのかで、大きく方向性が変わってくると思うんです。今回のテーマで考えると、『苦手さがあっても働ける方法』として、在宅ワークは可能性があると思っています」

石井「なるほど、そこは大事なところですね。完全に克服してから次にいくのではなく、慣らし的な移行期間をしっかり持ちながら次のステージを目指す、ということですか」

木村「在宅ワークはどちらかというと、『対面でのコミュニケーションをとらなくてもお仕事できますよ』というのがメリットだと思うんです。なので小さな仕事だけに限定するなら、彼らでも成り立つと思います。ただ、大きな仕事をしたりチームで仕事をしたりするようになると、それでは難しい。今後ウェブ上でのコミュニケーション・ツールがもっと発達してくるのであれば、既成概念を取り払った新しい働き方や、新しい価値観が出てくるんじゃないかと思っています」

石井「イチローが『週に1日はテレワーク』をアピールするCMも流れていて、国としても在宅ワークを推進していますね」

「ニュースでもやっていましたが、『テレワークは通勤の移動による温室効果ガスの排出を減らせる』というデータも出ていますので、今後、国の後押しのもとに、もっともっと在宅ワークが社会の流れになるというのは間違いないと感じています」

石井「そういった意味では、『在宅ワークと勤労観のギャップ』ということは徐々に埋まってきているという感じなんでしょうか?」

「私の地元札幌では、経済が下火でなかなか仕事がありません。旦那さんが働いても手取り10何万円、子どもが小さくて奥さんは外に働きに行けない。そういう環境で、在宅ワークは自宅で仕事ができ収入が得られるということで、非常に喜ばれるんです」

石井「なるほど、仕事のない札幌の自宅にいながら、仕事のある東京から仕事を受けることができるんですね!」

「はい。でもそれがニートやひきこもりの話になると、社会復帰を阻害するのではないかとかという話になってしまう。変な意味で特別扱いし過ぎなんじゃないかと思います。あくまで収入を得る選択肢の一つとして考えていただき、その先に、それがもしかしたら社会復帰になるかもしれないという可能性もある。やる前の不安感からその選択肢を消してしまうのはもったいないと思います」




星 知也

在宅ワークの促進に取り組む「株式会社うるる」代表。企業と在宅ワーカーとのマッチングを支援するサイト「Shufti」や、在宅ワーカーのスキルアップサイト「在宅ワークアカデミー」などを運営し、在宅ワークの活性化に取り組んでいる。在宅ワーカー希望者は700〜800万人いると言われる中、在宅ワーカーが働ける基盤を構築して、派遣やアルバイトにかわる日本の新しい労働力として在宅ワークという働き方ができる仕組みづくりを目指している。

木村 朋大

システムエンジニアなどITのプロフェッショナルが所属する「SEプロダクション株式会社」代表。エンジニアは時間や場所を超えて仕事ができるため、エンジニアの将来像として、通勤の必要がない働き方である在宅ワークに魅力を感じている。またこれまでに、「よこはま若者サポートステーション」を運営する「ユースポート横濱」と連携して「若者向けプログラマー養成講座」などを実施したこともあり、若年者就労支援にも積極的に取り組んでいる。

石井 正宏

株式会社シェアするココロ代表。当サイト編集長。NPO法人でひきこもり状態にある若者の支援に長く携わり、09年5月に会社設立。若者の支援として、フリースペース、若者自立塾、地域若者サポートステーション、家庭訪問、インターンシップ、キャリア教育事業等に責任者として関わり、支援現場の第一線で活躍してきた。