時間や場所を選ばず仕事ができることから、新しい働き方として現在注目を浴びている「在宅ワーク」。働くことに困難を抱える若者たちにとって、果たして在宅ワークは自立への有効なステップになるのかどうか。

 前回の座談会で、若者支援団体の方々と話し合ったことから、在宅ワークを通じて若者が社会性を学び達成感を得るためには、支援団体と企業の双方が理解した新しい仕組みが必要だということが見えてきました。では、実際に仕事を発注する側となる企業にはどのようなニーズがあり、在宅ワークにおける若者とのマッチングの可能性はどのような点にあるのでしょうか。

 「株式会社うるる」の星知也さん、「SEプロダクション株式会社」の木村朋大さん、「Y-プロデュース」の野竿達彦さん(元「横浜ベンチャーポート」所長)、横浜市こども青少年局青少年育成課からは青少年自立支援事業の担当者である関口昌幸さんと山口陽子さん、そして株式会社シェアするココロ、当サイト編集長石井正宏の5名で、企業側から見た在宅ワークの可能性や新しい仕組みのあり方について探っていきます。

山口「前回の座談会では、若者を支援している現場の方々と、在宅ワークを通じて若者がどういう働き方ができるのか、どのような可能性があるのかということを話しました」

石井「在宅ワークは、自立への通過点のような1つのステップになりうるのかということが議論されましたね。『半農半X』という、農業をやりながらほかのこともやって収益を得ながら生活が成り立っているという言葉があるように、そのXの部分が在宅ワークで、もう半分は外に出る仕事をする、という組み合わせも成り立つように感じました」

関口「働くことが難しい若者たちに対して、企業の中で働くという道だけでなく、新たに若者たちが働ける場と、新しい働き方を創造していくことが必要ですよね。その中で、在宅ワークという働き方はひとつ重要なポイントになると思います」

「弊社では、企業と在宅ワーカーを結ぶ受発注支援サイト『Shufti(シュフティ)』を運営して、名刺を100枚エクセルに入力するとか宛名ラベルを作成するという、企業が通常は発注しにくい小規模な業務を、在宅ワーカーさんが仕事として直接受けられるような仕組みを作っています。前回の支援者の方々の議論のなかで、『社会との接点が失われるのでは?』という懸念が出ていましたが、在宅ワーカーさんの中には、社会との接点をもうけたいから在宅ワークをやるという主婦の方も実は多いんですよ。企業と電話したりメールしたりというやり取りのみであっても、それは若者にとっても社会との大きな接点になると思いますよ」

関口「対面でコミュニケーションを取ることとは別のことであるけども、在宅ワークでも社会的スキルを身につけることができるんですね」

「企業も個人の在宅ワーカーさんにお仕事をお願いするのはまだまだ抵抗がありますが、もっと手軽に仕事を発注できるように、在宅ワーカーさんも安心して企業から仕事を受けられるようなプラットホーム作りをしていきたいんです。ただ、前回の議論に出ていた『入り口と出口は支援者が行って、中をカリキュラムとして若者たちが行う』ということにしてしまうと、逆に社会との接点がなくなってしまうと思います。まずはどういった方々が、どのような能力を持ち、困難を抱えているかを分析して、ターゲットに合わせた提案をしていくことが必要ではないでしょうか」

関口「在宅ワークにも社会的スキルが必要ということを、支援者もしっかり理解する必要がありますね。若者が企業と直接やり取りをする間に支援者が入ってしまうのではなく、在宅ワークを通じて若者がしっかりと社会との接点を持つことができるようにし、そこで社会的スキルを身につけてもらえるようサポートにすることがむしろ支援者の取り組むことになってくると思います」

「あとは、家から出ることが難しいひきこもりの若者や仕事になかなか就けない若者たちが在宅ワークに何を期待するかということですよね。一番良いのは外に働きに行くことだけど、外に働きに行くことができない理由があるので在宅ワークをする。だから最終目的は外に働きにいくことにするべきだと思うんです。でも最近の時代の流れとして、『ダブルワーク』という働き方が流行ってきています。『Shufti』の登録者の4割は主婦ですが、残りの多くはダブルワーカーをしていて、OLさんの登録も多い。在宅ワークは在宅ワークとして取り組みながらも、あくまでも外に働きにいくということを最終目的にして、在宅ワークが外に働きにいく準備をするリハビリとして役立てばいいと思います」

山口「在宅ワーカーとして働いてみて、そこでリアルなスキルを磨いて、それを継続する選択肢もあるだろうし、さらに一般就労の可能性もあるということですね」

木村「でも、若者が在宅ワークをすることの不安要素もありますよね。弊社はITの会社ですが、実際はITスキルよりも、電話の応対などというベーシックスキルが大事になってきます。そうしたスキルが身に付かないうちに若者が在宅ワークを始めると、仕事先と顔を合わせないぶん、何か面倒なことが起こるといきなり連絡を断ってしまうことも簡単だと思うんですよ。社会とのコミュニケーションを遠ざけることも簡単になってしまうんじゃないでしょうか?」

石井「あくまで、在宅ワークは自立していくための通過点なんだと捉えることが大事だと思います。在宅ワークで受けた仕事をこなすことでの自己肯定感や達成感で自信をつけて、そこから出口を見つけていくことにつなげていければいいですよね。その結果が在宅ワークなのか、一般的な就労なのか、その過程の中で信頼のおける人と相談しながら決定していける仕組みがあるといいですね」

木村「社会人1年生であれば先輩たちにかこまれながらOJTで仕事をできるようになっていくことができますが、若者がいきなり在宅ワークを始めるとそこで戸惑うと思うので、あったかみのある支援が必要になりますね」

石井「支援現場でカリキュラムの一環として在宅ワークがあった上で、企業の方にとってもビジネスモデルとしてどうなっていくか、企業側と支援者側がどう理解し合うかも大事ですね」




星 知也

在宅ワークの促進に取り組む「株式会社うるる」代表。企業と在宅ワーカーとのマッチングを支援するサイト「Shufti」や、在宅ワーカーのスキルアップサイト「在宅ワークアカデミー」などを運営し、在宅ワークの活性化に取り組んでいる。在宅ワーカー希望者は700〜800万人いると言われる中、在宅ワーカーが働ける基盤を構築して、派遣やアルバイトにかわる日本の新しい労働力として在宅ワークという働き方ができる仕組みづくりを目指している。

木村 朋大

システムエンジニアなどITのプロフェッショナルが所属する「SEプロダクション株式会社」代表。エンジニアは時間や場所を超えて仕事ができるため、エンジニアの将来像として、通勤の必要がない働き方である在宅ワークに魅力を感じている。またこれまでに、「よこはま若者サポートステーション」を運営する「ユースポート横濱」と連携して「若者向けプログラマー養成講座」などを実施したこともあり、若年者就労支援にも積極的に取り組んでいる。

野竿 達彦

企業の強み出しコンサルティングを行う「Y-プロデュース」代表。横浜での起業・独立・創業などのベンチャー支援に取り組む「横浜ベンチャーポート」の所長を2009年12月まで務め、2010年より自ら起業しY-プロデュースを始動。中小企業の支援をしてきた中で若者とも多く関わり、これからは個人の強みを出していくことが必要と実感。若者たちの声をしっかりと受け取り、元気を与えていけるような支援をしたいと考えている。

関口 晶幸

横浜市こども青少年局青少年育成課で、青少年自立支援事業に取り組む。一人ひとりの若者を元気にすることで、若者の力によって横浜という都市そのものを元気にする事業「よこはま ユース・ニューデール」を展開。より多くの市民や企業がこのムーブメントに参加することによって、新たな雇用を創出し、地域社会を活性化し、市民全体が抱える不安や不満が解消していくことを目指している。

山口 陽子

横浜市こども青少年局青少年育成課で、青少年自立支援事業に取り組む。若者のための集い「ヨコハマユースフォーラム」の開催も担当し、青少年自立支援のための政策や事業を、NPO・学校教育機関・企業・市民・行政など幅広い主体の交流とネットワークによって発展させていくことを目指している。

石井 正宏

株式会社シェアするココロ代表。当サイト編集長。NPO法人でひきこもり状態にある若者の支援に長く携わり、09年5月に会社設立。若者の支援として、フリースペース、若者自立塾、地域若者サポートステーション、家庭訪問、インターンシップ、キャリア教育事業等に責任者として関わり、支援現場の第一線で活躍してきた。